『小説吉田学校 第二部 党人山脈』 戸川猪佐武 (角川文庫)

 『小説吉田学校』の第二部のタイトルは党人山脈。
 党人に対するのは官僚出身者。当時は党人派と官僚派という対立軸があったんですね。
 自由党内に人脈がほとんどなかった吉田首相は人材を官界に求める必要があり、1949年の総選挙では5人の次官経験者(佐藤栄作・池田勇人・岡崎勝男・吉武恵市・坂田英一)が当選。
 官僚から政治家への転身は今でも珍しくありませんが、次官まで経験した人はほとんどいないはず・・・。なので、党人派と官僚はという色分けがはっきりしなくなっているのでしょう。

 この第二部で描かれているのは、鳩山一郎→石橋湛山→岸信介→池田勇人の各内閣です。

 昭和29年12月、吉田内閣総辞職。
 鳩山一郎は、参謀三木武吉の世紀の奇策――保守大合同――で安定多数を得るとともに、河野一郎ら党人実力者を擁する力を背景に、日ソ復交に、政治生命を賭ける。
 保守大合同により、複雑に絡み合う人脈。ポスト鳩山を狙う新実力者たち。戦後政治を彩る野心家が、虚々実実に展開する合従連衡……。


 中でも、鳩山一郎内閣のもとでの日ソ復交が大きなトピック。
 日ソ共同宣言といえば、鳩山一郎ですが、もう一人の一郎・河野一郎が果たした役割が、こんなに大きかったとは知りませんでした。でも、当時の河野一郎は外務大臣ではなく、農林大臣でした。
 では、外務大臣は誰だったのかというと、重光葵。ただ、この人は日ソ復交には積極的でなかった、というより、まるで足を引っ張っていたかのように、本書では描かれています。外務官僚のような発想・行動は、党人の鳩山・河野・三木武吉らと対照的。「党人山脈」なので、実際以上に対照的に描いたのかもしれませんが・・・。

 そんな実力者である河野一郎も岸内閣後半~池田内閣前半では岸・佐藤・池田の官僚派に対立する形で、非主流派となり、一時は新党を作る考えだったようです。結局は、自民党にとどまり、池田内閣の後半は主流派に転じましたが、総理・総裁の座には届かず・・・。池田後継は佐藤栄作で、官僚派・吉田学校門下生に阻まれた形になりました。
 河野一郎の政治人生を追うと、子・洋平や孫・太郎の非主流・反主流っぽい(いわゆる「主流派」が真に「主流」なのかは別として)言動・行動が何となく分かるような気がします。

 話は農林大臣時代の河野一郎に戻り、日ソ平和条約交渉に臨んだ時の描写――。

 「ガスパジン河野。ソ連の濃い酒……ことにアルメニア・コニャックをどうかね。これで乾杯をせんか」
 河野は酒が飲めなかった。
 が、このときはすかさず、
 「いいとも」と答えたあと、
 「ただし、乾杯に応ずるが、そのかわり、こちらのいうことをきいてもらいたい」といった。
 「よろしい」
 フルシチョフは、酔いにまかせて、日ごろ以上に威勢がよかった。河野は、なみなみとコニャックが注がれたグラスを手に、フルシチョフのグラスと合わせた。
 「乾杯!」
 河野は、いっきにそれを飲み乾した。(P222)


 フルシチョフとコニャックで乾杯したことになっていますが、Wikipediaによると――。

   酒がまったく飲めない体質だったが、フルシチョフにウォッカを薦められた際に、
   「国益のために死ぬ気で飲んだ」という。


 コニャックではなく、ウォッカ・・・。この違いは?
 どちらも飲んでいた可能性はありますが、ちょっと気になります。。

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  狸穴からの使者――ドムニツキイの登場
  顔を歪めた外相――二元外交はじまる
  閣議は踊る――日ソ交渉全権決まる 
  保守合同の狼煙――三木武吉の爆弾談話
  ロンドン・東京・ワシントン――重光のひそかな野心
  クレムリンの魚――河野、モスクワに乗り込む
  巨星三木武吉死す――策士大麻の暗躍
  モスクワへの遠い途――日ソ共同宣言の締結
  運命の七票――岸、石橋に敗れる
  騒乱の前夜――警職法改正もめる
  安保は燃える――岸内閣退陣へ
  寛容と忍耐への出発――池田と河野の間
  三人の実力者――池田から佐藤へ
             (昭和55年12月30日初版発行 昭和57年7月30日13版発行)

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