『長野殺人事件』 内田康夫 (光文社文庫)

 この作品はフィクションであり、文中に登場する人物、団体名は、実在するものとまったく関係ありません。なお、風景や建造物など、実際の状況と多少異なっている点があることをご了承ください。

 ノンフィクションではお約束の断り書きですが、実在するものとまったく関係ないわけがありません。
 特に、この『長野殺人事件』は明らかに田中康夫元長野県知事と思われる・・・というか、そのものズバリのキャラクターが登場し、知事初当選から失職後の再当選、さらに三度目の知事選までの様子が、事実に近い形で描かれています。
 「名刺折り曲げ事件」まで出てきたのには驚きました。そんなこともありましたね。

 ミステリーというより、長野県近年史としても読めます。

 地元紙「信濃毎朝新聞」のローカル色に満ちた記事や紙面作りもユニークに思えてくる。
 [広木松本市長不出馬表明
 こういう見出しが目に飛び込んだ。
 [鷹川長野市長から出馬要請を受けている広木知行松本市長は昨夜の記者会見で、当面は市の行政に注力するとして、知事選に出馬の意思のない旨を表明した。
 こういう内容で、記事は続けて、[これによって夏に行なわれる知事選の候補者探しは、またしてもふりだしに戻った。]という書き方をしている。(P157)


 市長名こそ違いますが、長野市長が松本市長を推したのは事実のようで・・・。
 以下は長野県知事選をめぐる記事のリンク。

         ・信州痴痔戦・猿山狂騒戯画~混迷極める長野知事候補選定~ 
         ・長野県知事選挙を推理する
         ・信濃毎日新聞・2006長野県知事選
         ・信濃毎日新聞・2002長野県知事選

 長野県知事選とともに、話を進めるうえで重要な要素となっているのが、冬季五輪不正支出の問題。
 冬季五輪とは、もちろん1998年に行なわれた長野オリンピックを指しています。

 もっとも、アンチ秋吉を標榜する側にも弱点がないわけではない。一九九八年に開催された長野冬季オリンピックの経費のうち、膨大な使途不明金の行方が、いまだに解明されていないのだ。秋吉らの追及に対して、会計責任者は堂々と「焼却した」と宣言したという。(P43)

 秋吉は田中康夫知事を模したキャラクター。Wikipediaには、

田中の出馬表明時には現職知事吉村午良の後継と目されていた前副知事が日本共産党以外の県議会議員や農業協同組合や建設業団体など多くの業界団体の支持を得ていて当選確実だと言われていたが、旧態依然とした長野県政の現状に加え長野オリンピックの運営費をめぐる使途不明などのスキャンダルに批判が集中した。

とあり、秋吉(≒田中知事):使途不明金を追求する側、反秋吉:追及される側、という図式が成り立ちそうですが、小説の中では成り立っても、実際はそんなに単純に割り切れません。Wikipediaの続き――。

連合の組織的な支援に加え、若さと清新なイメージで幅広い支持を受け初当選を果たし、2000年10月26日に長野県知事に就任する(なお疑惑の中心人物として名が挙がっていた「ミスターナガノ」こと吉田総一郎は、その後田中康夫の後援会「しなやか会」の幹部となった)。

 「しなやか会」って・・・。そういえば、「しなやかに」とか「たおやかに」とか、多用していましたね。
 それはともかく、まさに「事実は小説より奇なり」。
 これでは公約通り、使途不明金の実態解明が進むわけありません。
 うやむやになってしまったのには、このような背景があるのでしょうか?

 長野県近年史のほかにも、思い出させてくれたのが、岡谷市で土石流による被害が発生した2006年の大雨。もう5年前――。すっかり忘れてしまっていました。
 思い出したきっかけがミステリーというのが妙ですが、せっかくなので、復習しておきます。

   ・平成18年7月豪雨(長野県岡谷市周辺)の土石流災害の分布と特徴
   ・平成18年7月15日から19日にかけての長野県内の大雨に関する気象速報(長野地方気象台)
   ・平成18 年7 月15 日以降の大雨に関連する大気の流れについて(気象庁)
   ・平成18年7月豪雨  平成18年(2006年)7月15日~7月24日(気象庁)
   ・災害時気象速報 平成18年7月豪雨

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  プロローグ
  第一章  遠山郷に死す    第二章  知事室      第三章  使途不明金
  第四章  疑惑の構図     第五章  パンドラの箱   第六章  警部と探偵
  第七章  知事選への策動  第八章  第二の犠牲者  第九章  土石流の夜
  第十章  踊る女        第十一章 競争入札     第十二章 取引
  第十三章 新聞記者の死   第十四章 対決        第十五章 蹉跌の果て
  エピローグ
                              (2010年12月20日 初版1刷発行)

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        ・昼神温泉郷

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