『岩倉具視 言葉の皮を剥きながら』 永井路子  (文春文庫)

 永井路子の文庫本が出ていたので、さっそく読んでみました。
 文春文庫からは48冊目!(新装版が何冊かあるので、実質はこれより少ないですが、すごい数です)
 主人公は岩倉具視・・・というのはちょっと意外。エッセイは別として、自分が読んだ小説の中で取り上げられた人物というと、元正天皇、藤原冬嗣、藤原道長、北条政子、日野富子、お市の方、お江などなど・・・。奈良・平安~鎌倉時代が多く、江戸時代以降は少なめだったからです。
 おかげで、自分自身、鎌倉時代辺りまではけっこう詳しくなりましたが、江戸時代以降はさっぱり・・・。
 当然、岩倉具視もさっぱり・・・。自分が子供の頃は五百円札に描かれていましたが・・・。

  (画像のリンク先はWikipedia)


 当時は一万円札と五千円札が聖徳太子で、千円札は伊藤博文でした。
 聖徳太子も伊藤博文も教科書に出てくる有名人ですが、岩倉具視は?
 いや、教科書には出てきたはずですが、印象が・・・。
 明治新政府の政治家――はよいとして、具体的に何をしたか、よく知りませんでした。

 あとがきを参考にまとめると、岩倉具視の大仕事は次の3つ。

1)八十八卿列参事件
   日米修好通商条約調印の勅許を与えるべきと主張する、関白・九条尚忠への反対運動をとりまとめる

 日米修好通商条約は日本史の教科書に出てきましたが、調印までの裏側は知りませんでした。
 公家側も一枚岩ではなかったんですね。

2)和宮降嫁問題
   和宮降嫁をしぶる孝明天皇を説得

 岩倉具視の妹・堀河紀子が孝明天皇の寵愛を受けていたこと、初めて知りました。
 孝明天皇の側近となる中で、紀子の存在はかなり大きかったようです。

3)王政復古と摂関制の廃止
   1867年12月の宮中会議で、王政復古と摂関制の廃止決定に大きな役割を果たす

 これも裏側は詳しく知りませんでした。
 そして、幕府とともに、摂関制度も壊したことの意味も、あまり考えたことがありませんでした。

 十二世紀から始まった幕府を打倒したことだけが、クローズ・アップされているが、具視は九世紀以来続いて来た先年の摂関制度を打破したのである。もし摂関制度が明治以降も続いていたら? と想像するとき、やはりこのときの彼の大業にもっと注目すべきだと思うのだが。(P198-199)

 確かに、摂関制度は幕府よりさらに長く続いていたわけで、その意味は大きいですよね。

 ほかにも、幕府・長州・薩摩・土佐、それぞれの関係、一橋家の存在の大きさ、公家の中での対立軸など、知らなかったことを知ることが出来ました。中でも意外だったのは、岩倉具視が上の2)と3)の間に五年ほど失脚していたこと、弾劾する立場にいたのが、ともに明治新政府の中心人物となる三条実美だったことです。

 岩倉具視について興味が出てきたので、Wikipediaを見てみたら、さらに思わぬことが・・・。

  玄孫
   亀井久興(衆議院議員。国民新党幹事長)
   加山雄三(歌手・俳優)
   喜多嶋修(音楽プロデューサー)

  来孫
   亀井亜紀子(参議院議員。国民新党副幹事長・女性局長)
   喜多嶋舞(女優)


 ・・・だそうです。話が横にそれましたが・・・。

 知らなかったことを知ることが出来た・・・と同時に、尊皇攘夷、佐幕、王政復古、明治維新・・・などなど、知っている(つもりだった)事柄・言葉の意味を改めて考えさせられ、より深く知ることが出来たのは、この本を読んでの収穫でした。
 この本を手にした時、サブタイトルの「言葉の皮を剥きながら」の意味が分からなかったのですが、岩倉具視その人とは関係なく、言葉が纏った虚偽の衣装を剥ぎ取る、ということだったんですね。
 
 帯には

 構想四十余年。歴史の"虚"を剥きながら、真の岩倉像に迫った、永井文学の集大成となる評伝

 とにかく、これを抱えつづけることで私は死なずに生きてきた、ともいえる。 ――あとがきより


などとあり、まるで最後の作品のような感じですが、まだまだ書いてほしいものです。

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  貧弱な構図   虚妄の世界   手入の風景   奔馬   皇女・皇女
  奈落   姦物の時間   情報の虚実   毒殺・そして「壁」の光景
  「深謀の人」の「記憶」   その日まで   余白に……
    あとがき
    解説 湯川豊
                       (2011年2月10日第1刷)

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この記事へのコメント

あーる
2011年04月02日 10:24
よくよく考えてみると当時のお札って戦後民主主義の時代とは思えないようなすごいメンバーですね。
神話上の架空の人物-聖徳太子
韓国併合の立役者-伊藤博文
中央集権国家樹立の中心人物-岩倉具視
右翼の喜びそうな人物ばかりです。

自分の学生時代の記憶(一応歴史学専攻)では、三条・木戸対岩倉・大久保
の争いで、維新当初はほとんどこの4人で権力の中枢を握っていたと言っていい状況だったと思います。
たかはし
2011年04月03日 18:39
亡くなって間もなくの人は使いづらい・・・ということで、
明治政府の要人が選ばれたのかもしれません。
だとすると、「右翼の喜びそうな」はともかくとして、
「戦後民主主義」を象徴するような適当な人を
選ぶのは難しかったのでしょう。
聖徳太子は和の精神の象徴のような感じなので、
知名度から言っても、外せなかったのだと思います。

> 維新当初はほとんどこの4人で権力の中枢を
> 握っていたと言っていい状況だったと思います。

この本では維新後の記述はごくわずかでした。
明治維新については、別の本を探してみるつもりです。
登場人物や対立軸が複雑で、理解するのが大変そうですね。

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