『Q.E.D. 証明が生みだす美の世界』 バーガード・ポルスター (ランダムハウス講談社)

第一章 直観はだまされやすい第十三章 円錐を切断すると現われる曲線
第二章 ピュタゴラスの定理第十四章 紙を折って作る円錐曲線
第三章 平面幾何学、最初の一歩第十五章 結んで作る正多角形
第四章 パイから π まで第十六章 正方形を区分けする
第五章 カヴァリエリの原理第十七章 べきの和
第六章 錐体で切り分ける第十八章 限りなく続く素数
第七章 切頭図のパズル第十九章 数の性質
第八章 アルキメデスの原理第二十章 黄金比
第九章 円と球を切り開く第二十一章 フィボナッチ数
第十章 数学のドミノ第二十二章 オイラーの式
第十一章 無限の階段第二十三章 不可能な問題を解く
第十二章 円を転がしてサイクロイドを作る
 青木薫・訳   2005/11/9発行

 装丁の美しさに惹かれ、買ってしまいました。帯には「数学の気品に出会う旅」とあります。以下、作者の「はじめに」からの引用です。

 数学者である私は、ある定理がたしかに成立することを宣言するために、その定理の証明の末尾にQ.E.D.という三文字を記す。これは、quod erat demonstrandum というラテン語の頭文字を取ったもので、「これが証明されるべきことであった」という意味である。Q.E.D.は、数学における真理と美を表すものだが、その一方で、数学という古くからの学問がもっている近づきがたい側面を表してもいる。
 しかしこの三文字は、シンプルで印象的で、見た目にもわかりやすい証明の末尾につくこともある。この地位差は本は、そんな珠玉の証明を見て歩く旅となっている。その旅の道すがら、数学の証明の背景にある考え方も探っていくことにしよう。本書は、うわべだけではわからない、数学の隠れた美しさをもつ人すべてのために書かれたものである。


 確かに気品が感じられる本なのですが、わけが分からず道に迷ってしまい―――、ある意味、なが~い旅になってしまいました。
 旅の始まりは第一章の『直観はだまされやすい』。この章に出てくる下の図、円周上に一つ一つ点を置いていったとき、生じる領域の数はどうなるか?というもの。点の数が1・2・3・4・5の場合、それぞれ1・2・4・8・16なので、点の数が6なら領域の数は32になりそうだが、実際は31! (ここだけの話、何回数えてもなかなか31にならなくて・・・)


 具体的なケースで当たりをつけた予想がどんなにもっともらしくても、決して証明の代わりにはならないのである―――という例だが、本書ではこの類のものはまれで、エレガントな証明がどんどん出てきます。あまりのエレガントさについていけないのもいくつかありました。特に「立体もの」はダメですね。頭が固くなってしまったのでしょうか?!

 本文だけでなく、数々の証明は付録にも続きます。

  付録1 一つの定理にたくさんの証明
  付録2 すべてはつながっている
  付録3 見かけにだまされるな
  付録4 一般化からわかること
  付録5 高次元正多胞体


 付録3『すべてはつながっている』は『直観はだまされやすい』に共通する部分があります。
 例として挙げられている図を見ていて、五年ほど前に出されたある問題を思い出しました。同じパーツから構成された図形、上はちゃんとした三角形なのに、下は1マス欠けています。なぜでしょう? 答えは最後に。


    (図はこのサイトより引用)

 この下の図では64=65169=168が証明(?)されています。



 本書の記述では
  分割のトリック:最初の例では、64=65が証明されている。ここでの大きな誤りは、
  右側の図に示された対角線は、この図では線になっているが、実は非常にほっそり
  した面積1の四辺形であることだ。第一の”証明”では、正方形の面積は長方形よりも
  小さいが、第二の”証明”では、長方形の面積のほうが小さい。この二つの”証明”を
  考えだす背景には、フィボナッチ数の二乗は両隣の二つのフィボナッチ数の積と1だけ
  異なるという事実がある。

となっています。

 この説明が妥当なのか、正直?です。第一の例は長方形のほうが1だけ大きいので、対角線は「非常にほっそりした面積1の四辺形」という言い方ができるが、第二の例は長方形のほうが1小さいので、このような言い方はできない(実際、上の記述では何も触れていないし・・・)。
 ここでは対角線でこじつけるより、構成しているパーツがまったく同じではないことを示すべきでは? すなわち、
 1)長方形の対角線が正確に直線ならば、正方形のパーツの台形・三角形と
   長方形のパーツの台形・三角形は同一でない。

 2)台形が同一ならば、長方形の対角線は正確には直線でなく、
   一見、三角形に見える長方形のパーツは三角形と台形で構成され、
   正方形のパーツの三角形と同一でない。

 なに言ってんでしょう、この人? 分かりにくいですよね!? 以下、第一の例で示します。

1)正方形のパーツの台形 上辺:5、下辺:3、高さ:5なので、面積は20
  正方形のパーツの三角形 底辺:8、高さ:3 なので、面積は12
       正方形の面積は(20+12)×2=64
  長方形のパーツの台形 左辺:5、右辺:40/13、幅:5なので、面積は525/26 
  長方形のパーツの三角形 底辺:8、高さ:40/13 なので、面積は160/13
       長方形の面積は(525/26+160/13)×2=845/13=65

2)正方形のパーツの三角形 縦:3、横:8なので、面積は12
  正方形のパーツの台形の面積は20
        正方形の面積は(20+12)×2=64
  長方形の三角形に見える図形は三角形と台形で構成されている。
          三角形は高さ:2、底辺:5 なので、面積は5
          台形は左辺:3、右辺:2、幅:3なので、面積は7.5
  長方形のパーツの台形の面積は20
        長方形の面積は(20+5+7.5)×2=65

 正方形・長方形のパーツが一見同じに見えてしまうのは、
   正方形のパーツの三角形の斜辺の傾き         3/8
   長方形のパーツの対角線の傾き             5/13
   長方形のパーツの2)の場合の三角形の斜辺の傾き 2/5
   長方形のパーツの2)の場合の台形の上辺の傾き   1/3
の値が似通っているから―――、いずれも一つ間をおいたフィボナッチ数の比となっています。
 169=168の例でも同様に
   正方形のパーツの三角形の斜辺の傾き         5/13
   長方形のパーツの対角線の傾き             8/21
   長方形のパーツの2)の場合の三角形の斜辺の傾き 3/8
   長方形のパーツの2)の場合の台形の上辺の傾き   2/5
と、やはり一つ間をおいたフィボナッチ数の比です。
 「隣り合うフィボナッチ数の比は黄金比に収束する」という性質があります。ですので、一つ間をおいたフィボナッチ数の比もある値に近づくと推測されます(これは別に証明が必要でしょうが・・・)。この二つの例はフィボナッチ数の性質を利用した錯覚だったんですね。

 フィボナッチ数とは「フィボナッチ数列」、1、1、2、3、5、8、13、21… に現れる数字のことで、いずれも先立つ二つの数の和になっています。本書にも現われますが、いろいろ不思議な性質があるようです。(フィボナッチ数・Wikipedia

 さてさて、五年前に出された問題、当時は一秒も考えませんでしたが、これもフィボナッチ数が関係していたんですね。赤い三角形は底辺:8、高さ:3、緑の三角形は底辺:5、高さ:2、大きな三角形は底辺:13、高さ:5ですから―――。
 当時の「証明」は下の通り。エレガントのかけらもありません・・・。
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上の図形をX、下の図形をYとし、それぞれにおいて
左下の頂点をO、右上の頂点をA、右下の頂点(直角部分)をBとする。
OB=13、AB=5なので、⊿OABの面積は13×5÷2=32.5
直線OAの直線OBに対する傾きは5/13=0.384・・・

赤い三角形の斜辺の直線OBに対する傾きは3/8=0.375
これは直線OAの傾き5/13よりも小さい。
よってXは⊿OABよりも面積が小さい。
Xで赤い三角形の右上の頂点をCとすると
その差は⊿OCBの面積に等しい。
⊿OCBの面積は
8×((5/13)×8-3)÷2+5×((5/13)×8-3)÷2
=13×(40/13-3)÷2=1/2

青い三角形の斜辺の直線OBに対する傾きは2/5=0.4
これは直線OBの傾き5/13よりも大きい。
よってYは⊿OABよりも面積が大きい。
Yで青い三角形の右上の頂点をDとすると
その差は⊿ODBの面積に等しい。
⊿ODBの面積は
5×(2-(5/13)×5)÷2+8×(2-(5/13)×5)÷2
=13×(2-25/13)÷2=1/2

上の図形Xは⊿OABよりも1/2小さく、
下の図形Yは⊿OABよりも1/2大きい。
したがって、下の図形Yは上の図形よりも1大きい。
  (証明終わり)
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 ご愛読、ありがとうございました。

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